その夜、突如として奥羽の米沢城は炎上した。
燃え盛る城には全焼以外の選択肢は見つからず、城主を黄泉へと送る送り火へと化そう
としていた。
それは正に本能寺の再来を思わせる程の光景だったといえよう。
「伊達東軍来襲！ その数、二千！」
城主側につく物見が叫び、戦況を伝える。
伊達軍の総計から3割にも満たない者が謀反者側についたのだが、数は戦略と突然の
奇襲には対応できなかった。
それ故に、少しの油断が伊達軍の壊滅を余儀なくされるかもしれないのだ。
「ええい、伊達政道め！ この機を狙っておったか！」
中にはそう漏らす城主側の兵士もいる。伊達政道、その男の名こそが謀反の首謀者であった。
所変わって米沢城内部。
炎が一室に残る謀反の首謀者と米沢城の城主を取り囲んでいた。
二人のいる一室はまだ火の手は少ないが、何れ火の勢いは一室さえも飲み込むだろう。
「兄上、死ぬ前にどうして僕が謀反を起こしたか聞きたくはありませんか？」
謀反者は顔を縦断する程の大刀傷を負った男。顔の幼さを残した美青年だが、隠し切れない
傷のお陰で数々の修羅を乗り越えてきた猛者である事を表現していた。
「…………」
米沢城城主は顔の右半分が黒い眼帯で覆われている男。凍り付いているという表現には足りないほどに不気味に張り付いた無表情。
表情どころか眉一つ動かさず、謀反の張本人である実弟に斬りかかろうともしなかった。
「僕の野望には、兄上が消え去ってくれることが必要不可欠なんだ。だから、兄上の人生もそろそろ幕引きしてもらわないと」
血に飢えた獣の目、伊達政道は刀の切っ先を兄に向け、
「僕らの時代は何時まで経っても来ないんだ」
そう言った。
「……………分った」
兄と呼ばれた眼帯の男は、呆れた様に溜息を付き腰の刀を一気に引き抜いた。
「我との真剣勝負……心置きなく楽しめ」
この男は内心、真剣勝負を望んでいたのかもしれない。
暫しの間、炎の城には剣戟の音が響き渡った―――。
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